2026-08-28

電話を切ったあと、受付はカルテを探しています

診療所の電話対応が重いのは、通話が長いからではありません。重いのは、受話器を置いたあとに残る作業のほうです。予約の変更ならその場で終わりますが、書類や費用の確認は「調べてかけ直す」が残り、症状の相談は「医師に渡して判断を待つ」が残ります。しかも残る作業の種類が用件ごとに違うため、あとでまとめて片付けることができません。分けるべきなのは電話ではなく、電話のあとに残る仕事のほうです。

折り返しの件がいま何件ありますか、という記事のアイキャッチ。診療所の電話対応で、通話後に残る作業が受付に積み上がる構造を扱う。

窓口に人が並んでいるのに、電話が鳴る

受付は、窓口の対応と会計と電話を同時に持っています。人数が3人でも5人でも、この3つが一度に来ることは変わりません。

電話に出ること自体は、それほど負担ではありません。困るのは、電話に出たせいで手元に仕事が増えることです。「調べてかけ直します」と言った時点で、受付は宿題を1件抱えます。窓口の列はその間も伸びています。

そして夕方になると、こうなります。

  • 「折り返します」と言った件が、メモのまま何件か残っている
  • そのうち1件は、何を聞かれたのか思い出せない
  • 1件は医師の確認待ちで、昼から止まったままになっている
  • 1件はかけ直したが相手が不在で、また明日に回っている

WEB予約を入れても、この山は思ったほど小さくなりません。理由は単純で、WEB予約が引き受けてくれるのは「予約を取る電話」だけだからです。残るのは、そもそもシステムで受けられない用件のほうで、そちらのほうが処理が重い。

電話の負担は、通話時間の外側にあります

電話対応を減らそうとするとき、たいてい見ているのは通話時間です。1日30件、1件3分なら90分。この90分を短くしよう、あるいは無くそう、という発想になります。

ところが実際に受付の手を止めているのは、その外側です。

図1:1件の電話にかかる時間の内訳(説明のための試算)。通話時間を短くしても、受話器を置いたあとの時間は減りません。「電話が多い」と数えているのは、通話の部分だけです。
段階受付がしていること記録
通話(約3分)患者と話す電話の記録に残る
調べる台帳・カルテを見に行くどこにも記録されないが、手は戻っていない
聞く/待つ医師の手が空くまで止まるどこにも記録されないが、手は戻っていない
かけ直す不在なら、また残るどこにも記録されないが、手は戻っていない

通話3分に対して、調べて、聞いて、かけ直すまでで10分から15分。件数が同じでも、用件の中身が変われば負担は3倍にも5倍にもなります(いずれも構造を説明するための試算で、実測値ではありません)。

ここを見ずに「電話の本数」だけを数えていると、対策が的外れになります。本数を減らしても、残るのは重いほうの用件だからです。

用件によって、残る作業の種類が違います

診療所にかかってくる電話を、通話後に残るもので分けると、おおむね3種類になります。

図2:用件で分けるのではなく、通話後に残るもので分けます。同じ「1件の電話」でも、行き先が違います。
用件答えの在りか受話器を置いたあとに残るもの
予約の変更・確認予約表だけで終わる(残らない)
書類・費用・持ち物の確認答えは院内のどこかにある調べて、かけ直す
症状の相談答えを出せるのは医師だけ医師に渡して、判断を待つ

用件1 予約の変更・確認 — その場で終わる

予約表を見れば答えが出るので、通話中に完結します。WEB予約や自動応答が引き受けられるのも、ほぼここだけです。いちばん軽い用件が、いちばん自動化されやすいという関係になっています。

用件2 書類・費用・持ち物の確認 — 調べて、かけ直す

健診の書類、証明書の料金、検査前に何を持ってくるか。答えは院内のどこかにありますが、受付の頭の中か、誰かの引き出しにあります。だから毎回探すことになり、探す人が変わると答えも変わります。

用件3 症状の相談 — 医師に渡して、判断を待つ

「この症状で受診したほうがいいか」「薬を飲み忘れたがどうするか」。受付が答えてよい範囲を超えます。医師に渡し、判断が返るのを待ち、そこから折り返す。3工程あるので、いちばん長く止まります。

この3つを分けずに「電話対応」とひとまとめにしているあいだは、何を改善しても手応えが出ません。軽い用件を自動化しても、重い用件はそのまま残るからです。

どこまでを受付が返せるかは、診療科と体制によって変わります。AI業務改善診断では、業種と困りごとを選ぶだけで、手をつける順番の見当がつきます(無料・約1分)。

折り返す前に、4つ決めておく

用件を分けたら、次は折り返しの型を決めます。決めるのは4つだけです。この4つが埋まっていないメモは、あとで見ても何もできません。

  1. 誰が返すか。受付が返すのか、医師の確認を挟むのか。ここが空欄だと、メモは誰の手元にも入らないまま机に残ります。実際に一番多く滞留するのは「誰の担当か決まっていない件」です。
  2. 何を見れば答えが出るか。料金表なのか、検査の案内文なのか、カルテなのか。見る先が書いてあれば、担当が変わっても同じ答えになります。書いていなければ、返す人ごとに答えが変わります。
  3. いつまでに返すか。本日中なのか、翌診療日でよいのか。期限が無い件は、必ず後ろに回ります。回った結果、患者からの二度目の電話になって戻ってきます。
  4. 相手にいつなら通じるか。通話中に聞いておかないと、かけ直して不在、また明日、という往復が発生します。1件あたりの負担がここで倍になります。通話中の30秒で、翌日の10分が消えます。

紙のメモ用紙にこの4欄を刷っておくだけでも変わります。道具の話ではなく、受話器を置く前に何を確定させておくかという話だからです。

症状の相談は、答えるのではなく渡す

ここは他の業種と決定的に違うところなので、分けて書きます。

問い合わせ対応の改善は、たいてい「速く答える」方向に向かいます。ところが診療所では、速く答えることがそのまま危険側に振れる用件があります。症状の相談です。

厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、個別の患者の状態を踏まえて診断や処方を行う行為と、一般的な情報提供にとどまる相談とが区別されています。後者は医師以外でも扱えますが、前者は医師でなければ行えません。受付が症状を聞いて「様子を見て大丈夫です」と答えることは、前者にあたる可能性があります。

受付で返せる

  • 診療時間・休診日
  • 予約の空き状況と変更
  • 検査の費用、必要な持ち物
  • 書類の発行にかかる日数と料金
  • 「受診の要否は医師が判断します」と伝えること

医師に渡す

  • いま出ている症状への対応
  • 受診すべきかどうかの判断
  • 薬の飲み方・飲み忘れへの対応
  • 検査結果の意味
  • 他院にかかるべきかどうか

「医師に渡す」側を受付が抱えないと決めるだけで、通話は短くなります。「その内容は医師が判断しますので、確認して折り返します」で切れるからです。短くなった通話のぶんは、そのまま医師の待ち行列に移りますので、渡し方を決めておく必要があります。

AIに答えを作らせない。メモを振り分けさせる

では、生成AIはどこで効くのか。答えを作らせるのではなく、受付が書いたメモを決めた欄に振り分けさせるところです。

受付のメモは、通話しながら書くので当然こうなります。

これを、先ほどの4項目+用件区分に振り分けさせます。

指示文に必ず入れるのは、次の3行です。

  • メモに書かれていない項目は、埋めずに空欄で返すこと
  • 症状に関する記述があれば、用件区分を「医師に渡す」とし、内容への回答は書かないこと
  • 回答文そのものは作らないこと

2行目が無いと、AIは親切に「一般的にはこの症状であれば……」と書き始めます。それが受付の手元に出てきた時点で、読んだ人はつい使ってしまいます。出させないのがいちばん確実です。

なお、患者の氏名・連絡先・症状は要配慮個人情報を含みます。外部のサービスに入力する範囲は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえて、院内で先に決めておいてください。実名や連絡先を入れずに、用件だけを振り分けさせる使い方であれば、範囲はかなり狭くできます。

どの用件が多いかは、診療科によって変わります

ここまでは、どの診療所でも同じように書ける部分です。実際に運用に載せる段になると、決めることが出てきます。

  • 3種類のうち、どれが多いか。小児科は症状の相談が多く、整形外科は予約と持ち物、内科は書類と費用の比率が上がります。多いところから手をつけないと、体感が変わりません
  • 受付が返せる範囲を、どこに引くか。これは院長が決めることで、汎用の線引きは書けません。書いてあるものを渡されても、その診療所では使えません
  • 医師にどう渡すか。診療の合間に口頭で渡すのか、まとめて紙で置くのか。ここで詰まると、分けた意味が消えます
  • 台帳を誰が作り、誰が直すか。答えの台帳は作った時点では正しく、半年後にはずれています。更新する人を決めないと、結局また探すことになります

診療科、予約の取り方、スタッフの人数によって答えが変わります。汎用の手順で書けるのはここまでで、最後の一歩は自院の電話に当てはめないと埋まりません。

よくある質問

WEB予約を入れたのに、電話が減らないのはなぜですか
WEB予約が引き受けるのは「予約を取る・変える」電話だけだからです。この用件は通話中に完結するため、もともと通話後の負担がほとんどありません。減らせるのがいちばん軽い用件で、書類や費用の確認、症状の相談はそのまま残ります。本数は減っても、受付の体感が変わらないのはこのためです。
電話対応の負担を測るには、何を数えればよいですか
本数と通話時間ではなく、「折り返し」として残った件数を数えてください。通話中に完結した件と、調べてかけ直した件と、医師の確認を挟んだ件を分けて記録します。1週間分あれば、どの用件が手を止めているかが見えます。本数だけを数えていると、重い用件と軽い用件が同じ1件になります。
受付が症状の質問に答えるのは、どこまでなら問題ないのですか
診療時間や費用のような一般的な情報提供は受付で扱えますが、目の前の患者の症状を踏まえて受診の要否や対応を伝えることは、医師の判断にあたる可能性があります。厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも、診断・処方にあたる行為と一般的な相談は区別されています。線引きは院長が決めて、受付に明文で渡してください。
AIに患者からの電話の回答文を作らせてもよいですか
回答文は作らせないでください。特に症状に関わる内容は、もっともらしい文章が出てくるうえ、読んだ人がそのまま使ってしまいます。AIに任せるのは、受付が書いたメモを「用件区分・誰が返すか・何を見るか・期限・連絡先」の欄に振り分けるところまでです。書かれていない項目は空欄で返させます。
スタッフが3人しかいなくても、始められますか
人数は関係ありません。最初にやるのは、折り返しメモに「誰が返すか・何を見るか・いつまでに・いつなら通じるか」の4欄を作ることだけです。紙のメモ用紙に刷るだけでも成立します。人数が少ない診療所ほど、誰の担当か決まっていない件が滞留しやすいので、効き方はむしろ大きくなります。

まず、自分の業務の場合を確認する

業種と、いま一番困っていることを選ぶだけで、優先して手をつけるべき業務と、進め方の見当がつきます。3つの質問に答えるだけ、所要時間は約1分です。

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