窓口に人が並んでいるのに、電話が鳴る
受付は、窓口の対応と会計と電話を同時に持っています。人数が3人でも5人でも、この3つが一度に来ることは変わりません。
電話に出ること自体は、それほど負担ではありません。困るのは、電話に出たせいで手元に仕事が増えることです。「調べてかけ直します」と言った時点で、受付は宿題を1件抱えます。窓口の列はその間も伸びています。
そして夕方になると、こうなります。
- 「折り返します」と言った件が、メモのまま何件か残っている
- そのうち1件は、何を聞かれたのか思い出せない
- 1件は医師の確認待ちで、昼から止まったままになっている
- 1件はかけ直したが相手が不在で、また明日に回っている
WEB予約を入れても、この山は思ったほど小さくなりません。理由は単純で、WEB予約が引き受けてくれるのは「予約を取る電話」だけだからです。残るのは、そもそもシステムで受けられない用件のほうで、そちらのほうが処理が重い。
電話の負担は、通話時間の外側にあります
電話対応を減らそうとするとき、たいてい見ているのは通話時間です。1日30件、1件3分なら90分。この90分を短くしよう、あるいは無くそう、という発想になります。
ところが実際に受付の手を止めているのは、その外側です。
通話3分に対して、調べて、聞いて、かけ直すまでで10分から15分。件数が同じでも、用件の中身が変われば負担は3倍にも5倍にもなります(いずれも構造を説明するための試算で、実測値ではありません)。
ここを見ずに「電話の本数」だけを数えていると、対策が的外れになります。本数を減らしても、残るのは重いほうの用件だからです。
用件によって、残る作業の種類が違います
診療所にかかってくる電話を、通話後に残るもので分けると、おおむね3種類になります。
予約の変更・確認 — その場で終わる
予約表を見れば答えが出るので、通話中に完結します。WEB予約や自動応答が引き受けられるのも、ほぼここだけです。いちばん軽い用件が、いちばん自動化されやすいという関係になっています。
自動化しても、残りの負担は減らない
書類・費用・持ち物の確認 — 調べて、かけ直す
健診の書類、証明書の料金、検査前に何を持ってくるか。答えは院内のどこかにありますが、受付の頭の中か、誰かの引き出しにあります。だから毎回探すことになり、探す人が変わると答えも変わります。
同じ質問に、何度も別々に答えている
症状の相談 — 医師に渡して、判断を待つ
「この症状で受診したほうがいいか」「薬を飲み忘れたがどうするか」。受付が答えてよい範囲を超えます。医師に渡し、判断が返るのを待ち、そこから折り返す。3工程あるので、いちばん長く止まります。
速く答えようとすると、危険側に振れる
この3つを分けずに「電話対応」とひとまとめにしているあいだは、何を改善しても手応えが出ません。軽い用件を自動化しても、重い用件はそのまま残るからです。
折り返す前に、4つ決めておく
用件を分けたら、次は折り返しの型を決めます。決めるのは4つだけです。この4つが埋まっていないメモは、あとで見ても何もできません。
誰が返すか
受付が返すのか、医師の確認を挟むのか。ここが空欄だと、メモは誰の手元にも入らないまま机に残ります。実際に一番多く滞留するのは「誰の担当か決まっていない件」です。
何を見れば答えが出るか
料金表なのか、検査の案内文なのか、カルテなのか。見る先が書いてあれば、担当が変わっても同じ答えになります。書いていなければ、返す人ごとに答えが変わります。
いつまでに返すか
本日中なのか、翌診療日でよいのか。期限が無い件は、必ず後ろに回ります。回った結果、患者からの二度目の電話になって戻ってきます。
相手にいつなら通じるか
通話中に聞いておかないと、かけ直して不在、また明日、という往復が発生します。1件あたりの負担がここで倍になります。通話中の30秒で、翌日の10分が消えます。
紙のメモ用紙にこの4欄を刷っておくだけでも変わります。道具の話ではなく、受話器を置く前に何を確定させておくかという話だからです。
症状の相談は、答えるのではなく渡す
ここは他の業種と決定的に違うところなので、分けて書きます。
問い合わせ対応の改善は、たいてい「速く答える」方向に向かいます。ところが診療所では、速く答えることがそのまま危険側に振れる用件があります。症状の相談です。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、個別の患者の状態を踏まえて診断や処方を行う行為と、一般的な情報提供にとどまる相談とが区別されています。後者は医師以外でも扱えますが、前者は医師でなければ行えません。受付が症状を聞いて「様子を見て大丈夫です」と答えることは、前者にあたる可能性があります。
受付で返せる
- 診療時間・休診日
- 予約の空き状況と変更
- 検査の費用、必要な持ち物
- 書類の発行にかかる日数と料金
- 「受診の要否は医師が判断します」と伝えること
医師に渡す
- いま出ている症状への対応
- 受診すべきかどうかの判断
- 薬の飲み方・飲み忘れへの対応
- 検査結果の意味
- 他院にかかるべきかどうか
右側を受付が抱えないと決めるだけで、通話は短くなります。「その内容は医師が判断しますので、確認して折り返します」で切れるからです。短くなった通話のぶんは、そのまま医師の待ち行列に移りますので、渡し方を決めておく必要があります。
AIに答えを作らせない。メモを振り分けさせる
では、生成AIはどこで効くのか。答えを作らせるのではなく、受付が書いたメモを決めた欄に振り分けさせるところです。
受付のメモは、通話しながら書くので当然こうなります。
受付が通話中に書いたメモ(作例)
14:20 さとうさま 60代くらい らいげつの健診 会社に出す書類がいるって りょうきんと、当日どれくらいかかるか 090-XXXX-XXXX 夕方以降なら出られる
これを、先ほどの4項目+用件区分に振り分けさせます。
振り分けさせた結果
用件区分:書類・費用の確認 誰が返す:受付 見るもの:健診の料金表/所要時間の案内 返す期限:本日中 連絡先 :090-XXXX-XXXX(17時以降) 医師確認:不要 空欄 :なし
指示文に必ず入れるのは、次の3行です。
- メモに書かれていない項目は、埋めずに空欄で返すこと
- 症状に関する記述があれば、用件区分を「医師に渡す」とし、内容への回答は書かないこと
- 回答文そのものは作らないこと
2行目が無いと、AIは親切に「一般的にはこの症状であれば……」と書き始めます。それが受付の手元に出てきた時点で、読んだ人はつい使ってしまいます。出させないのがいちばん確実です。
なお、患者の氏名・連絡先・症状は要配慮個人情報を含みます。外部のサービスに入力する範囲は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえて、院内で先に決めておいてください。実名や連絡先を入れずに、用件だけを振り分けさせる使い方であれば、範囲はかなり狭くできます。
どの用件が多いかは、診療科によって変わります
ここまでは、どの診療所でも同じように書ける部分です。実際に運用に載せる段になると、決めることが出てきます。
- 3種類のうち、どれが多いか。小児科は症状の相談が多く、整形外科は予約と持ち物、内科は書類と費用の比率が上がります。多いところから手をつけないと、体感が変わりません
- 受付が返せる範囲を、どこに引くか。これは院長が決めることで、汎用の線引きは書けません。書いてあるものを渡されても、その診療所では使えません
- 医師にどう渡すか。診療の合間に口頭で渡すのか、まとめて紙で置くのか。ここで詰まると、分けた意味が消えます
- 台帳を誰が作り、誰が直すか。答えの台帳は作った時点では正しく、半年後にはずれています。更新する人を決めないと、結局また探すことになります
診療科、予約の取り方、スタッフの人数によって答えが変わります。汎用の手順で書けるのはここまでで、最後の一歩は自院の電話に当てはめないと埋まりません。
よくある質問
- WEB予約を入れたのに、電話が減らないのはなぜですか
- WEB予約が引き受けるのは「予約を取る・変える」電話だけだからです。この用件は通話中に完結するため、もともと通話後の負担がほとんどありません。減らせるのがいちばん軽い用件で、書類や費用の確認、症状の相談はそのまま残ります。本数は減っても、受付の体感が変わらないのはこのためです。
- 電話対応の負担を測るには、何を数えればよいですか
- 本数と通話時間ではなく、「折り返し」として残った件数を数えてください。通話中に完結した件と、調べてかけ直した件と、医師の確認を挟んだ件を分けて記録します。1週間分あれば、どの用件が手を止めているかが見えます。本数だけを数えていると、重い用件と軽い用件が同じ1件になります。
- 受付が症状の質問に答えるのは、どこまでなら問題ないのですか
- 診療時間や費用のような一般的な情報提供は受付で扱えますが、目の前の患者の症状を踏まえて受診の要否や対応を伝えることは、医師の判断にあたる可能性があります。厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも、診断・処方にあたる行為と一般的な相談は区別されています。線引きは院長が決めて、受付に明文で渡してください。
- AIに患者からの電話の回答文を作らせてもよいですか
- 回答文は作らせないでください。特に症状に関わる内容は、もっともらしい文章が出てくるうえ、読んだ人がそのまま使ってしまいます。AIに任せるのは、受付が書いたメモを「用件区分・誰が返すか・何を見るか・期限・連絡先」の欄に振り分けるところまでです。書かれていない項目は空欄で返させます。
- スタッフが3人しかいなくても、始められますか
- 人数は関係ありません。最初にやるのは、折り返しメモに「誰が返すか・何を見るか・いつまでに・いつなら通じるか」の4欄を作ることだけです。紙のメモ用紙に刷るだけでも成立します。人数が少ない診療所ほど、誰の担当か決まっていない件が滞留しやすいので、効き方はむしろ大きくなります。
まず、自分の業務の場合を確認する
業種と、いま一番困っていることを選ぶだけで、優先して手をつけるべき業務と、進め方の見当がつきます。3つの質問に答えるだけ、所要時間は約1分です。
無料 / 登録不要 / 約1分
受付が返せる範囲をどこに引くか整理したい、医師への渡し方を含めて組み直したいという場合は、support@ailmira.com までご連絡ください。診断の結果を添えていただけると、話が早く進みます。
本記事の時間・件数(1日30件、通話3分、通話後10〜15分)は、構造を説明するために置いた試算であり、実測値ではありません。診療科、規模、予約の取り方によって大きく変わります。受付メモの例は作例で、実在の患者・診療所のものではありません。受付が対応できる範囲の線引きは、各医療機関の管理者が判断する事項です。本記事は法的な助言ではありませんので、実際の運用にあたっては関係法令および院内規程をご確認ください。生成AIの挙動は、利用するサービス、モデル、指示文によって異なります。
参考: