調べ終わっているのに、報告書が終わりません
顧問先へ出す文書は、月次の報告、法改正の説明資料、決算や診断の報告書と、名前は違っても作り方が似ています。数字は出ている。条文も確認した。あとは書くだけ、のはずのところから、1本あたり2時間前後かかります(試算)。
そして翌週、別の顧問先に同じ制度の説明を書きます。先月書いたものがあるはずなのに、開いてみると使えません。前の顧問先の数字と事情が、説明文の中に入り込んでいるからです。結局、また最初から書きます。
ここで手をつけがちなのが、様式のほうです。フォーマットを決める、章立てをそろえる、表紙を作る。それで作成時間が変わらなかった、というところから始めます。
1本の報告書に、性質の違う4つが入っています
報告書を書き終えた状態から、中身を逆に分解してみます。文章としては1本につながっていますが、そこに入っているものは4種類あって、それぞれ性質がまったく違います。
この分け方は、章立てとは違います。章立ては「現状」「課題」「提案」のように話の順番で切りますが、いま切ったのは誰が書けるかです。切り口が違うので、章をきれいにそろえても層は混ざったままです。
そして層3は、文書全体から見ると多くありません。「この会社の場合、この改正の影響はここに出ます」「この水準は、業種と規模から見て説明が要ります」——文章にすれば数行から十数行です。その数行のために、単価のいちばん高い時間が2時間分ふさがっています。
前回の報告書が使い回せないのは、混ざっているからです
層1は、どの顧問先に出しても同じ内容です。制度が変わらないかぎり、去年書いたものがそのまま使えるはずです。それなのに毎回書き直しているのは、前回の層1が、前回の顧問先の数字と一緒に文書の中に埋まっているからです。
開いて、使えそうな段落を探し、社名と数字を消し、この顧問先向けに直す。この作業が、書き直すのと変わらない時間になります。だから「使い回せない」と判断して、白紙から書きます。資産になるはずのものが、毎回捨てられています。
ここが、この問題のいちばん割に合わないところです。層1は本来、書けば書くほど溜まっていく種類のものです。混ぜて保存しているせいで、10年やっても1本目と同じ速度でしか書けません。
書く前に、型と材料に分けておきます
変えるのは順番です。報告書を書き始める前に、層1と層2を文書から切り離して、別々に持ちます。
- 型(層1)——顧問先に依存しない説明文。制度ごとに1つ作って、改正があったときだけ直す
- 材料(層2)——この顧問先の事実と数字。項目名を決めておいて、毎回そこを埋める
型は「文書」ではなく「部品」として置きます。社名も金額も入れません。材料は箇条書きで足ります。文章にしないでください。文章にした瞬間に、また型と混ざります。
型と材料に分けて持つ(作例:法改正の説明資料)
【型】法改正の説明 / どの顧問先に出しても同じ 何が変わるか / いつから適用されるか / 対象になる会社の条件 規程のどこを直すことになるか / 直さなかった場合に何が起きるか 【材料】この顧問先の事実 / 毎回集める 従業員数と雇用形態の内訳 / 現行規程の該当条文 / 前回の改定日 対象になりうる従業員がいるか / 直近で運用を変えた点 【判断】← ここだけ自分が書く この会社の規程のどこが要変更か / いつまでに何を決めるか 決めなかった場合、この会社では何が起きるか
この形にすると、時間の配分が変わります。層1と層2は型と材料から流し込むだけになり、層3に使える時間が増えます。
AIに白紙から書かせない。確定した型に流し込ませる
型と材料が手元にあると、生成AIに渡せる工程がはっきりします。渡すのは「書いて」ではなく「この型に、この材料を入れて」です。判断が要らず、材料はすべて確定しています。
逆に言えば、この分け方をしないまま「報告書を書いて」と頼むと、AIは足りない部分を自分で埋めます。企業が生成AIの導入で挙げた課題のうち最も多かったのは「適切な利用方法がわかっていない」でした(総務省 令和7年版情報通信白書。出典は末尾)。何を渡して何を渡さないかが決まっていないと、使い方の問題は残り続けます。
任せるAIに渡してよい
- 確定済みの型に、この顧問先の材料を流し込んで報告書の形にする
- 自分が書いた判断を、顧問先に伝わる言い回しに直す(専門用語を平易にする)
- 判断から出る「次にやること」を、担当と期日の表にする
- 材料に無かった項目を、空欄のまま一覧にする
持つ人が必ず決める
- 制度の説明を白紙から書かせること(条文と適用時期を「それらしく」間違える)
- 判断そのもの。制度に事実を当てる部分
- 断定の強さ(「〜と考えられます」を「〜です」に強めさせない)
- 顧問先の情報を、どのサービスに入れてよいか
そして、材料に無かった項目は埋めさせずに空欄で返させます。「一般的にはこの規模なら」と補われると、その一文は事実の記述ではなく推測になります。空欄の一覧が出てくれば、顧問先に確認すべきことがそのままリストになります。
出す前に、必ず自分で見る3か所
出来上がったものを全部読み直すと、結局そこで時間を使います。見る場所を先に決めておきます。この3つは、間違ったときの影響が他と桁で違います。
制度の記述と、適用の時期
条文の趣旨が少しずれていても、適用開始が1年ずれていても、文章としては自然に読めます。ここは型のほうを正としてください。型を確認した日付を型に書いておくと、いつの制度の記述かが後から分かります。
3か所のうち、いちばん静かに間違う
数字が、材料から写されているか
前の顧問先の数字が残っていても、桁が近ければ気づけません。材料に無い数字が本文に出ていたら、それは推測です。金額と人数と日付は、材料と1つずつ突き合わせます。
断定の強さが、変わっていないか
言い回しを整えさせると、「〜と考えられます」が「〜です」に変わることがあります。読みやすくはなりますが、責任の範囲が変わります。自分が留保をつけた箇所は、留保がついたまま出ているかを見ます。
断定の強さを気にするのは、この業種に固有の事情です。税理士の書面添付制度は、申告書について、税務の専門家として独立した公正な立場からどのように調製したかを明らかにするもので、税理士だけに認められています(国税庁。出典は末尾)。顧問先へ出す報告書はこの制度の対象ではありませんが、文書に何をどう書いたかが、そのまま自分の立場の表明になるという点は同じです。

どの報告書を型にできるかは、事務所ごとに違います
ここまでは、扱う分野が違っても同じように考えられる部分です。実際に運用に載せる段になると、事務所ごとに決めることが出てきます。
- どの報告書から型にするか。毎月同じ様式で出しているものは型にしやすく、案件ごとに構成が変わるものは向きません。持っている顧問先の数と、分野の偏りで変わります
- 顧問先の情報を、外部のサービスに入れてよいか。守秘義務と顧問契約、事務所の規程の問題です。入れないと決めた場合、型に流し込む工程の作り方が変わります
- 会計・給与システムから材料をどう取り出すか。すでに数字がシステムにあるなら、材料の集め方は転記ではなく出力になります
- 職員がいる場合、どこまでを渡すか。層2と層4は資格が要らないため渡せますが、渡した後の確認を誰がやるかは別に決める必要があります
顧問先の数、扱う分野、事務所の体制によって、答えが変わります。汎用の手順で書けるのはここまでで、最後の一歩は自分の事務所に当てはめないと埋まりません。
よくある質問
- 報告書のフォーマットを統一したのに、作成時間が減らないのはなぜですか
- フォーマットが決めているのは章立てと見た目であって、中身の性質ではないためです。1本の報告書には、制度の説明・顧問先の数字・専門家としての判断・次にやることという4つが混ざっており、そのうち有資格者にしか書けないのは判断の部分だけです。様式をそろえても、混ざっている状態は変わりません。
- 前回の報告書を使い回せないのは、なぜですか
- 制度の説明が、前の顧問先の数字や事情と一緒に文書の中に埋まっているからです。使えそうな段落を探して社名と数字を消し、今回の顧問先向けに直す作業は、書き直すのとほぼ同じ時間になります。制度の説明を、顧問先に依存しない「型」として最初から別に持っておくと、この工程が消えます。
- 型と材料は、どのくらいの粒度で持てばいいですか
- 型は説明文として文章で持ち、社名も金額も入れません。材料は箇条書きで足ります。従業員数、該当条文、前回の改定日といった項目名を先に決めておき、毎回そこを埋める形にします。材料を文章にすると、また型と混ざって使い回せなくなります。
- 生成AIに報告書そのものを書かせてはいけないのですか
- 確定した型に材料を流し込む工程と、自分が書いた判断を顧問先に伝わる言い回しに直す工程は任せられます。任せないのは、制度の説明を白紙から書かせること、判断そのもの、断定の強さの調整の3つです。制度の記述は条文の趣旨や適用時期がずれていても文章としては自然に読めるため、間違いが表面に出てきません。
- 顧問先の情報を、生成AIのサービスに入れても大丈夫ですか
- 守秘義務と顧問契約、事務所の規程にかかわるため、記事の側で大丈夫とは言えません。事務所として入れないと決めるのは十分にありうる判断で、その場合は型に流し込む工程の作り方が変わります(顧問先を特定できる情報を材料から外す、社内で完結する手段にする、など)。先に決めてから工程を組んでください。
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本記事の時間(1本あたり120分、層ごとの内訳、型を使った場合の75分)は、構造を説明するために置いた試算であり、実測値ではありません。扱う分野、報告書の種類、顧問先の数によって大きく変わります。型と材料の例は作例で、特定の制度や実在の事務所のものではありません。本記事は業務の進め方について述べたものであり、税務・労務その他の個別の判断に関する助言ではありません。書面添付制度に関する記述は制度の位置づけを示すために引用したもので、顧問先へ出す報告書はこの制度の対象ではありません。顧問先の情報を外部サービスへ入力する可否は、守秘義務、顧問契約、事務所の規程によって判断が異なります。生成AIの挙動は、利用するサービス、モデル、指示文によって異なります。
参考: